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sakiblog

双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

 あたしが入ったとき、店には客が一人も居なかった。開店した直後だ、居ても一人か二人だろうと思っていた。この曜日、この時間は、アルバイトのルナちゃんだけということを知っている。ほとんどそれ目当てで訪れたようなものだったので、都合がよかった。

 ルナちゃんは、あたしより一歳年下。カウンターを挟んだ間柄といえども、女友達がほとんどいないあたしにとっては、気軽に話せる数少ない同年代の女性だ。ここに通い初めた頃は、丁寧語で喋っていたが、最近やっとタメ口になれた。そんな些細なことすら、嬉しかったりする。

 同じ年頃の独身女性が二人。なんとなく、話題の方向が結婚や出産になった。女に生まれたからには、子供を産んでみたい、と言うルナちゃん。自分の身体の中に、他の人間がいるなんて、オカルトじゃない?と彼女は主張した。あたしはそれに、少し笑ってしまった。

 妊娠すれば、酒もタバコも、カフェインも我慢しなければならなくなる。何を摂取すればいいんだろうね、とあたしが言うと、今度はルナちゃんが笑った。こんなしょうもないことを言っている間は、そんな機会は巡ってこないだろう。

 それから何組か客が来て、マスターも来て、騒がしい金曜の夜を楽しんだ。あたしがこのバーに通っていることを、サクは知らない。告げたところで、何もやましくないのだが、なんとなく彼には言いたくないのだ。

 サクはあたしの放浪癖を、やや諦めている節がある。飲みに行くと言ったとき、どこへ、とは聞くけれど、誰と、とは聞かない。あたしはそれをいいことに、好き放題遊んでいる。結婚して、子供ができれば、そんな横暴は許されない。酒やタバコを我慢する以上に、不可能に思える事柄だ……。

 帰ってサクに電話すると、報告がある、とのことだった。彼に甥か姪ができるという話だった。なるほど、彼は自分の子より前に、弟の子を抱くことになるというわけだ。あたしはそれに機嫌を悪くしたが、悟られないよう、酔ったふりを装った。

 弟の嫁さんとは面識がある。あたしと全く違うタイプの、穏やかで少女っぽい女性だ。一人で夜の街に繰り出し、浴びるほど酒を飲んで帰ってくる女とは全く違う。きっと、いい母親になるのだろう。