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sakiblog

双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

 昼からサクと会っていた。カラオケ、居酒屋、コーヒー・チェーンといういつもの流れ。彼は酒が極端に弱いので、ショットバーなどに連れていけないのが残念なのだが、この日はあたしも酒が要らなかったので丁度良かった。
 メープルラテを飲みながら、あたしは昔の男のことを話した。サクとはいずれ一緒に暮らしたいと話しているのだけれど、その男と半同棲をしていた頃のことが参考になるからだ。一緒に住みだすと、外出しなくなり、一人の時間が無くなるのはまず間違いない。経験から裏付けされた同居のリスク。そんな不安さえ、あたしたちは楽しく話していた。
 サクと別れてバスに乗ったとき、まさにその男から着信がきていた。帰宅してから、彼氏さんとデートしてた、とメールすると、もう一度電話がかかってきた。近況報告もそこそこに、彼はあたしと付き合っていた頃の話を始めた。
 思い出というのは美化されるらしい。彼はあたしを殴ったことがあるそうだが、どこまで記憶を辿っても、そんな痕跡すら見当たらなかった。悪いことは消去してしまっているんだろう。付き合い始めのあたしの態度や、サークルの合宿。あたしが忘れていた良き思い出が、電話越しによみがえった。
 それから、彼は今付き合っている彼女について話し出した。あたしより一つ年下。地元の女の子。瞳がキラキラして可愛いらしい。そして彼は、彼女の両親に挨拶に行くのだといい、その一言であたしは確信した。ああ、その子と結婚するんだな、と。
 彼と別れた直後は、あたしはずっとめそめそしていて、文字通り「食事も喉を通らない」状態だった。もし彼が他の女性と付き合ったら、と想像するだけで嫌だったのに、今回結婚することについて、負の感情はほとんど湧いてこなかった。不思議なものだと思う。
 なぜ彼が、あたしに電話をかけてきたのか、その理由もなんとなくわかる。おそらく、過去のあたしと決別したかったのだろう。彼の中で、あたしは一番思い出深い彼女だ。彼の生き方にも、かなりの影響を与えている。

「子供でもできてたら、おめぇと一緒になってたかな」
「そんなんわからんよ」

 きっともう、彼から電話はこないのだろう。寂しさが先に立つが、彼が真っ当に一人の女性を選んだことは微笑ましく思うし、あたしもあたしで生きていける。美しい思い出だけもらっておく。