sakiblog

双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

 お偉いさんとの面談があった。直属の上司よりも、さらに上のお方。普段はおいそれと会話できない人。その面談であたしは、自分の家庭環境が、一般的に見ておかしい部類に入ることを知った。
 面談は、希望部署や勤務地など、テンプレ通りの質問から始まった。あたしは特に強い要望を伝えなかった。転職したばかりで、社内のことをよく知らないのだ。てっきりそれだけで終わると思っていたら、この一言。

「君の家はどないなっとんねや」

 両親は無職。母は元々専業主婦。父は二年前に早期退職し、それからは収入ゼロ。あたしは雀の涙を家に納めている。親に恩返しをするのは当然じゃないですか、という顔をすると、父母がまだ五十代であることを突っ込まれた。
 当然、あたしの給料だけで大人三人が暮らしていけるはずはない。そこを深く聞かれてしまい、母方の祖父母から援助を受けていることを白状した。お偉いさん、さらにびっくり。

「君のとこは、健康やのに働かんと、子と親から金受けとってるんか」
「あー、整理するとそういうことになりますねぇ」
「あー、やあらへんわ」

 もう一つ言うことがあった。結婚を考えている恋人が、正社員ではないということだ。両親から大反対されていると言うと、当然だと怒られた。ちなみにお偉いさん、あたしの親世代。

「子供はどうするんや」
「無理でしょうねぇ、この状況だと」
「この少子高齢化の時代に……若者がそんなんで……」

 一夫多妻制を認めて高所得者に何とかしてもらいましょう、などといい加減なことを言う暇も無く、お偉いさんは言った。

「ちゃんと考えなあかんで」

 面談中あたしはずっと、元気にハキハキと受け答えをしていた。多少は意識していたが、ほぼ自然にそうしていた。家庭環境の質問にも、同じ調子で答えるものだから、脳天気すぎると思われたようだ。確かに、あたしもちゃんと考えてなかった。第三者に言われて初めて腑に落ちた。うちの家、どうなってるの。
 その日は久しぶりにサクに会えた。魚と豆腐が美味しい居酒屋へ行った。彼との食事が一番楽しい。彼は素材の旬であるとか、味付けの工夫であるとか、そういう蘊蓄を語ることもできる。しばらくは料理のことを話していたのだけれど、ビールが二杯目になる頃に、あたしは面談の話をした。包み隠さず。
 正社員になれないことを、最も悔しく思っているのは、紛れもないサク自身だ。けれどこのときのあたしは、遠回しな言い方で彼を責めてしまった。君が正社員なら、今すぐにでも結婚できるのに。なぜなれないの?オブラートに包んでいたとしても、意味はそのまま伝わっている。

「サキちゃん、ごめんな」
 謝ってほしくない。謝る姿なんて見たくない。でもそれがあたしたちの現状だ。多くないとはいえ、安定した所得を稼ぎ出すのは、今まで出てきた登場人物の中であたしだけ。

「余所の家庭事情に口を出すのはあかんと思ってたから、今までハッキリ言わんかったけど」

 サクは言った。あたしの両親はおかしいと。あたしに色んな事を求めすぎていると。給料を入れることに加え、正社員で学歴のある男と結婚し、早く孫を産むことまで要求するなんて酷すぎると。あたしはそれが世の中の親が一般的に望むことだと思っていたし、それができていない自分を恥じていた。でもそれは違うらしい。
 どうしたらいいか全くわからなかった。すぐに解決する問題ではない。バイトでも何でもいいから、父が再就職すること。サクが正社員になること。あたし一人が頑張ったところでどうにもならない。いっそのこと、サクと別れて、あたしの両親が求める条件を全て満たす男と付き合えばいいのだろうか?なんて。
 家に帰っても、父は家庭菜園に体力を使い果たしてとっくに眠っている。母はパソコンをしながらテレビを見ていて、最近できた東大卒の男友達のことをしつこく聞いてくる。こんな家の居心地がいいはずはない。それでも朝食がきちんとでてきてシャツにアイロンがかかっているのだから、文句は言えないと思う。ここが、あたしの実家。