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双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

 夜の八時を過ぎて、食事に行くタイミングを逃し、身の置き場がなかったあたしは、とりあえず空いていた席に腰掛けた。そして、29歳が22歳に対して、「年上のおっちゃんからのお話」をするのを聞いていた。
 29歳の彼は、死生観が変わったエピソードを端的に語った。シラフでするには、あまりに重すぎる話題ではないかとあたしは思った。しかし、22歳は良き聞き手であり、的確な相槌をうっていた。25歳のあたしは、一言も発さずただそこにいた。
「私の悩みなんて、本当にしょうもないなあって思いますよ」
 と22歳が言うと、29歳はすかさず反論した。
「そんなことはないよ。当人なりに必死なんだから」
 そう言って、コップの容積の例え話をした。年齢を経る毎に、コップは少しずつ大きくなる。年をとれば、コップから溢れる分は少なくなるが、若い内はそれを入れられる容積がないのだと。
「喉乾いた」
 あたしがそう言うと、22歳がカルピスウォーターをくれた。いい子だ。
 それから29歳は、トラブルを抱えた友人が、自分にだけそれを打ち明けてくることの辛さを語った。久々に再会した友の変わり果てた様子。それを他人に言えない苦しさ。
「そうなる前に、俺ができることはなかったか、もっと早く連絡を取っておけば、こうはならなかったんじゃないかって思うよ」
 そのセリフを聞いて、あたしは口を開きたくなったが、やめた。そうすれば、あたしの話をせざるを得ない。それは面倒だった。22歳から見れば、あたしは少し年上のお姉さん。彼女にあたしのろくでもない話をして、余計に不安がらせるのは嫌だった。
 29歳の話を聞いていて、あたしが考えていたのは、酒とギャンブルで破滅しかかった愛しい友人のことだった。彼が一番酷かったときは、連絡しなかった自分を悔いた。時間が経ってくると、それで良かったのだという風に思えてきた。こんなつまらない話はする必要がないと思った。
 別の友人がきたので、あたしは席を立った。真面目な22歳の今後を思いながら。