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双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

 彼女は店を出るときにキエと名乗った。
 あたしは些細な僻みから、拗ねて一人でバーに行くことにした。日曜日の夜六時、入ったときに客はあたし一人しか居なかった。キエが入ってきたのはあたしより30分ほど後のことで、バーテンとは顔見知りの風だった。あたしはギネスビールを飲みながら、キエとバーテンの話に耳を傾けた。キエは四捨五入すると20歳。初めてできた彼氏が浮気ばかりするということだった。店に来る前に、レ・ミゼラブルを観て号泣していた。
 あたしが携帯電話の充電を依頼したのがきっかけで、途中から彼らの会話に加わることになった(あたしは未だにFOMAを使っており、それをキエに突っ込まれたのだ)。余り人生の先輩ぶるようなことはしたくなかったのだが、彼女が何となく年上の女性の意見を求めている気がして、大きな口を叩いた。一度他の男に抱かれてしまえば、三人目も四人目も同じだからと。月並みなことを言ったつもりだったが、キエはえらく納得していた。言葉の内容ではない。バーで出会った年上の女性がそう言った、というのが重要だったのだろう。
 バーテンとあたしの恋人であるサクは同い年だった。近頃妙に59年生まれに縁がある。先月入ってきたアルバイトの子もそうだ。あたしはサクに、25歳とは思えないほど幼稚でワガママなメールを送っていた。もちろんその願いは通らなかった。キエはキャスターを三本くれた。一年ぶりにタバコを吸った。
 酔ったときにしか話せない相手というのがいる。ケイがそうだった。彼からしたって、あたしはそういう存在だった。なのでバーのカウンターで電話をした。彼は実家を追い出されていた。今日会話をしたのはマクドナルドの店員だけだと言っていた。金曜の夜に会うことを約束した。
 そうこうしていると、キエがコートを羽織りだした。あたしはタバコの礼を言い、名を聞かれたので大学時代のあだ名を告げた。彼女が去ってすぐ、サクからメールがきていたのに気づいた。やはり今日は会えないとのことだった。あたしは相変わらず機嫌を損ねたままであり、皮肉と嫌みと文句を打ち込んだ。
 会計は5400円だった。四時間半で5杯飲んだのだが、まあ妥当な金額だと思う。あたしはバーテンに、キエの感想を言った。あたしも20歳の頃はあんな感じだったかもしれない、と。だが実際のところ、キエはあたしより賢い。タガを外すことができたならば、いい女になれると思った。