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双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

定年まであと数年のカウントダウンを切ったおっちゃんと、帰る時間が一緒になった。あたしは雑用諸々をしてから会社を出るのだが、新人が一人だけということもあって、ぼっちで帰ることが多い。駅まで誰かと話しながら歩くというのは、けっこう久しぶりだった。
おっちゃんは今でこそ愛想のいい初老紳士だが、若い頃は任侠系の幹部ばりにドスがきいていたことを伺わせる風貌だ。実際、昔を知る人から聞くと、物凄く恐い先輩だったらしい。パワハラやら何やらが煩くなったせいもあるが、あたしは怒鳴られたこともないし、色んな話をしてくれる彼のことは好きだ。
あたしは職場で、恋人がいることを公言しているので、結婚は決まったのか、とおっちゃんが聞いてきた。向こうが正社員じゃないので、まだまだ先の話ですね、ともはやテンプレと化した返答をした。あたしは幾人にも同じことを聞かれ、同じことを返している。あたしはもう籍入れたいんですけどね、と滅多に溢さない本音を言うと、女性がしたいと思った時がそのタイミングじゃねぇの、と人生の大先輩は言った。
おっちゃん曰く、結婚は女性が決めるもの、らしい。その根拠に、女性は父親の臭いを嫌うという話を挙げた。遺伝子の遠い相手を嗅ぎ分けるのは女性の方だから、男性は選ばれるのを待つしかないのだと。だから、男性の未婚は仕方ないが、女性の未婚は選り好みしすぎているだけなのだと渋く笑った。
出世も、安定した収入も望めないことをわかっていて、今の恋人を選んでいるのは、あたし。本能のせいにすれば、その理由に説明をつけることができた。それでも、彼に不満がないわけではなくて、別の方法で辻褄を合わせている。
独りは寂しいよ、とおっちゃんは言った。彼自身、孤独に耐えられなくて結婚したようなものだった。独身貴族を目指している男友達も多いですけどね、と言うと、そいつら遅かれ早かれ考え直すぜ、とのことだった。
帰りの電車の中で、独身貴族予定のカツヤからラインがきた。仕事の愚痴をしばらく聞いてやった。彼には、決まった彼女が居ない。誰にも本気になろうとしないのは、結婚を避けているからだろう。ボーナスはほとんど使いきった様子で、自由に金を使える喜びを謳歌しているが、結局のところただの寂しがりだということをあたしは知っている。こんな奴ほど急に結婚するかもしれないな、と他人事のようにそう思った。