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双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

車の名前はどうも覚えられない。それが高価なのかどうかなんて尚更わからない。三年振りに会った昔の恋人は、なんとかというやたら大きい車に乗って、三時間かけてやってきた。隣県とはいえ、彼の地元はけっこうな田舎。一度行ったことがある。遠かった。
地元民であるあたしの案内で、昼食を採り、観光スポットに行き、カラオケをして、居酒屋で腰を押し付けた。もちろん彼はノンアルコールなのだが、あたしは気にせず対面でビールを飲んだ。適当に頼んだサーモンの刺身が旨かった。
彼に振られたのはもう五年も前になる。嫌い合って別れたわけではないので、互いにそこそこ引きずった。時間薬が効を奏し、それぞれの故郷で恋人を作った。彼は来年、籍を入れるという。こうして昔の女に会いにくることはもうできなくなるだろう。
帰り道のトンネルの中で、今日は本当に楽しかったと彼が言った。そして、付き合っていた頃にできなかったことを、まとめてやった気がすると。観光や飲みは片手の指ほどしかしたことがなく、カラオケに至っては初めてだった。彼はサークルでボーカルをしていたから、あたしはその歌声を知っていたけれど、あたしが歌うのを彼は今まで見たことがなかった。
もっと色んなことしたかったな、なんて言われて、不覚にも泣いてしまった。とっくに彼のことなど振り切っていたのだが、21歳のあたしが嗚咽を漏らした。
あたしを泣かせたことに動揺したのか、彼はあたしを送った後道に迷い、四時間かけて帰ったという。