sakiblog

双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

 朝帰りならぬ昼帰り。iPhoneの電源はとうに切れていて、腹の中にあるのはコンビニで買ったチョコレート。二日酔いにはなっていなかったが、なんとなく気分が悪かった。

 昨夜は安居酒屋で適当に食事をした後、一時期よく通っていたというバーに連れて行かれた。繁華街の中にひっそりと佇む……という慣用句がぴったりはまる、落ち着いた雰囲気。ケイはあたしに、一緒に来たことが無かったか聞いたが、こんな洒落た場所を忘れるはずがない。他の女の子と間違えているのだろう。店にはカウンター席の他にボックス席が二つあり、あたしは一番奥のカウンター席に座った。ご注文はスプモーニ

 あたしはすっかり酔いが醒めていたが、ケイはその逆だった。やたら上機嫌でちょっとしたことで笑い、あたしを小突いて楽しんでいた。出会ってからの年月を数えて、八年になることを知って、すっかりつまらない社会人になってしまったことを二人で寂しく思った。いつかクミコに会いに行こう、と約束した。彼女はあたしたちのようにならなかった。

 ケイはここ二年ほど、彼女ができていなかった。恋ができないのだと大真面目に言った。あたしはこの八年間の会話を思い返し、彼が今まで一度だって本当に恋愛をしたことがあっただろうかと訝しく思った。卒業してから六人くらいと付き合って別れたはずなのだが、彼には所々記憶違いがあり、あたしがそれを指摘するという有様だった。

 結婚できない気がする、とケイは言った。結婚したいの、と聞くと、親に孫の顔を見せたいだけかもしれない、と呟いた。彼は親に実家を追い出されていたが、深い愛情を感じてもいた。彼は他人の痛みに敏感で、夕方のニュースでいちいち感傷的になるような男だった。そして、女の子と長続きしない理由をあたしに聞いてきたのだが、セックスが下手だからじゃないの、とはとても言えなかった。

 当然のようにホテル街に足を向けて、ケイは少しだけ躊躇して、本当にこの方角でいいのか聞いてきた。何を今さら、と思ったあたしは、まるで関係のない言葉を返した。彼と寝るのは正直疲れるだけだし、そこまで望んではいなかったのだが、とっくに終電はなくなっていた。

 ケイと眠るときは、背中合わせの方が落ち着いた。微かに伝わる振動と温もりで、彼が生きているのだとわかっているだけで良かった。