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双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

 梅田で夜行バスに乗り、松本に着いたのは夜明け前だった。誰もいない駅前を歩き、24時間営業のガストで暇をつぶした。サクと朝食を食べたのは、付き合って一年目のその朝が初めてだった。
 見事な秋晴れだった。松本城の周りを、寝不足の身体ではしゃぎながら歩いた。城の中では、火縄銃を打つ真似をして遊んだ。アルプスがよく見えた。城下町を散策し、蕎麦を食べた。関西人のあたしたちは、出汁の色が本当に黒いことにいちいち驚いていた。
 上高地線で新島々まで行き、バスで白骨温泉へ向かった。車中ではほとんど寝ていた。ふと目を開けると、深々とした山の中であり、あたしは浮かれた気分になった。山奥の温泉に行こう。今回あたしは、そう言って計画を立てたのであった。
 旅館に着いてすぐ、あたしたちは湯に入った。白骨はその名のとおり、白く濁った温泉だ。サクは、大人になってから温泉に行ったことがなかったらしく、硫黄の匂いを珍しがっていた。夕食は、山菜や川魚がメインのあっさりしたものだった。特にイワナが美味しかった。サクは魚をとても綺麗に食べるので、あたしは感心していた。きっちり食べる人があたしは好きだ。
 深夜の露天風呂で、あたしたちは真面目な話をした。サクはいつだって、あたしの身体を気遣ってくれているようだった。病院嫌いを豪語するあたしを、少し強めの口調で諭してくれた。あと何年、共に健康で居られるだろう。正式な婚約を結んでいるわけでもないが、なるべく元気に老いることを、あたしたちは目標にした。
 朝食後にも湯に入り、早めに旅館をチェックアウトした。自家用車で来れば、時間を気にせずのんびりできただろうが、あたしたちはそうではない。互いに運転には自信がないし、そもそも車を持っていない。バスの中で、美しい山の景色を見ながら、あたしは寂しいと言った。サクはあたしの右手を握った。
 三宮に帰ってから、あたしたちは旅費の精算をした。交通費や食費の合計額を出して二で割り、多く払っている方に差額を渡すのだ。他のカップルの事情は知らないが、ここまできっちり割り勘をするのも珍しいと思う。何せ自動販売機で買ったお茶まで含むのだ。サクもあたしも、恋人間であるからこそ金の扱いはきちんとせねば、という意識が強い。かかったのは一人当たり四万四千円。この三日間の幸せを思えば、安いものであった。