sakiblog

双極性障害Ⅱ型。只今リハビリ出勤中。まずはカテゴリから「双極性障害と診断されるまで」を読まれることをおすすめします。

 ナオトと二人で飲みに行った。今回はあたしの奢り。彼の就職祝いだった。
 去年の秋にあたしと別れてから、ナオトはきちんと就職活動をし始めた。それまでも、全くしていないわけではなかったが、身が入っていなかったのだ。ブラックでなければどこでもいいさという態度だったし、数年後のビジョンなどまるで見据えていなかった。それが急転、自分の強みを把握し、攻めにいくようになった。年明けには面接に行くのが楽しいと言いだし(就活ハイってやつだ)、内定を一つ獲得。それに満足せず、次に参加した説明会で、彼の気質に合う小さな会社と出会った。そうして、彼はようやく社会人になれたのだった。
 あたしはナオトと別れたことを後悔していないし、彼も同様だった。就活を頑張るようになったのは、サキにいい報告をしたかったという気持ちがある。見返してやりたいとか、そんな風に思ったことはない、と彼は言った。そもそも、彼がフリーターだったから別れたわけでは決してない。あたし自身、手取り十万以下の契約社員だし、彼を振って付き合ったのは、さらに条件の悪い無職の男だ。それでも、あたしに振られたことがきっかけで、彼の意識は変わり社会的地位が好転した。別れてよかった、ということになる。それを言うと、彼は苦笑した。あながち、間違ってもいないからだ。
 サキが去年の春に、俺をハロワまで引っ張って行ったことがあったよね、とナオトは話し出した。当時あたしは、彼のやる気のなさが心配になり、エレベーターホールまでついて行ったのだった。出過ぎた真似かもしれないとは思っていたが、強硬手段も時には使うべきだと踏んだのである。あの時に、きちんと本気を出していたら、サキは俺から離れなかったかもしれない。あれは、俺のミスだ。そういう事を言われるとは夢にも思わなかったので、あたしは当惑した。修羅場のときに彼から浴びた罵声を思い出した。半年で、人はこうも変わるものか。今の彼には、寛大さや落ち着き、男としての魅力が数倍にも増していた。
 それでもあたしは、ナオトとヨリを戻したいとは一切思わなかった。半年間、未だ無職で、アルバイトの口さえ見つけることのできない男を愛して止まないのである。この愛情は、ただの意地なんだろうか、自分をごまかしているだけではないのだろうか、何度も問うた。頭ではよくわからなかった。ただ、身体が反応する方に従おうと思った。あたしは彼の髪に触れても、もう何も感じなくなってしまっていた。